この地域の特色は、やはり温泉ですね。世界的にも有数のラドン温泉です。三朝温泉の源泉は本当に貴重で、新たに温泉を掘ることができないのです。私は人とのご縁がたまたまあり、この源泉を譲り受けました。
うちの源泉は地下3メートル程度のところで湧いているのですが、この地表に近いところというのが重要なんです。確かに、数百、数千メートルも掘れば温泉が湧く場所もあると思いますが、この数百、数千メートルという長さが重要で、湧き出てくるまでに様々な温泉成分を含みながら湧いています。
私は観光協会の会長をしており、また温泉施設を運営する「(特非)NPOみささ温泉」を立ち上げた初代理事長です。そういった立場で、岡山大学との連携によって温泉の研究・調査も行い、温泉については様々な勉強をしてきました。その中で自分の所有する源泉に驚くほどの価値があることがわかったのです。
三朝温泉はラジウム温泉ですが、うちの源泉はラドンの含有量が群を抜いて高かったのです。以前、開かれた温泉研究会で、その価値を再認識しました。
けれども、源泉は活用できなければ、そのまま流れてしまいます。これを皆さんに有効に使っていただきたいという思いがきっかけでした。
(特非)NPOみささ温泉が「三朝温泉 たまわりの湯」を運営し始めて約10年になりますが、多くのお客様に好評いただいています。2016年の鳥取県中部地震で熱気浴が中止になり、早く再開して欲しいとお客様が多く来られています。
つまり「温泉に入りたい」というニーズが多数あるわけです。
この「温泉に入りたい」というニーズは、地元だけではないと考えました。
この近隣の方々は、地元の温泉スタンドで温泉を持ち帰り、自宅で温泉に入ることができます。しかし、遠隔地に住んでいる、例えば東京や大阪に住んでおられる方が温泉をそのまま運ぶというのは至難の技です。
三朝温泉に来られた方には満足して帰っていただくのですが、年に何回も来ていただくのは本当に難しいことです。そこで「三朝温泉水」で三朝温泉の良さを自宅でも感じていただき「また、三朝温泉へ行きたい」と思っていただきたい。三朝温泉のファンになってもらいたいのです。
そこで、遠隔地に温泉を運ぶ方法はないかと考えました。三朝ミストなど温泉を活用した商品は、三朝温泉旅館組合などで開発が進んでいて、源泉を活用するヒントもそこにありました。
「濃縮三朝温泉水」のとりそらたかくパッケージ(左)と海外向けパッケージ(右)
そこで思いついたのが濃縮して詰める、つまり「濃縮還元」です。家庭のお風呂を温泉にする方法を見つけたのです。もともとは「塩業」、要するに塩作りの自然濃縮による製法でした。この製法は長野大学で研究・開発されたもので、それを静岡の会社が設備として開発・製造していました。
本来は就労支援施設で「塩作り」をするためのものだったようですが、見た瞬間に「これだ!」と思い、静岡の会社へ連絡を取ったわけです。静岡から鳥取まで来ていただき、装置の導入設置をしていただきました。早速、製造し隣接する弊社の店舗で販売を始めたのですが、正直不安でいっぱいでした。
パッケージには「三朝温泉」と書いてありますが、何の商品なのかわからず、少々怪しいですよね。(笑)
水を詰めて売っていても、わからないですから。
ところが、源泉が湧いている場所で、製造・販売したのが幸いしました。
「三朝温泉という場所」「源泉が湧いている」「隣で製造している」「実際に見ることができる」。
これらが揃ったことで信用していただくことができました。
そして、使っていただいたお客様からの反響がすごいです。使った方はリピーターになっていただいて、定期的に購入いただいています。お客様の中には食品と勘違いされる方もいらっしゃいましたが。(笑)
まだまだ、パッケージにも改良の余地があります。
女性が手に取りやすい、サイズとパッケージデザイン
そこで次に開発したのが、安価でオシャレなパッケージです。とりそらたかくの商品ではないのですが、海外のお客様や女性向けに開発しました。海外の方がお土産に持ち帰りやすように、カバンの中で潰れない容器へと変化させました。当然、パッケージも若い人が手に取りやすいようにしています。
少量で足湯や手湯に丁度いいサイズです。海外には足湯の習慣もありますので。
海外の方、特に香港・中国・韓国の女性は美容に関する意識が高いですね。若年層の方に手に取っていただくケースが多く、日本人だとご年配の方が多いです。また海外の女性は、温泉の成分を含んだ化粧品を好む傾向があり、日本人に比べて、温泉そのものへの関心も高いです。
うちの会社が取り扱って来た「食品」と、地元の資産である「温泉」が融合し、この商品が生まれました。
我が社は103年の歴史がありますが、最初は八百屋、その次に肉屋、続いて酒屋と時代のニーズに合わせて取扱商品を広げて来た、一次問屋です。近年は、減少傾向にあり廃業している会社も少なくないと思います。
そういった時代背景もあり「同じ場所に留まっていては、企業が存続することはできない」という認識があります。
これは社風なのかもしれませんが、先代も先々代も1つの業種に縛られず、常に新しいものを開拓してきました。
曽祖父は八百屋がうまくいかなかった時、ジャガイモを作るために自転車で北海道まで行きました。それもうまくいかず、三朝に帰ってきたのですが。(笑)
常に新しいもの、時代に沿ったもの、お客様に取って本当に役立つものを、模索・研究しながら、いろんな方法で提供していきたいと考えています。商売を続けていく、というのはこういった変化が重要なんだと思います。というよりも、人が生きていくうえで根本なのかもしれません。
まだまだ発展途上の商品です。お客様やいろんな方々の意見に耳を傾けながら、常に変化させていきたいと思います。生み出した商品が、そのままで売れ続けるとは考えていません。1つずつ変化を加えて「商品を成長させていく」ことが大切だと考えています。ぜひ使っていただき、皆さんの声をお聞かせ願えればと思います。
私を支えてくれている人、地域の人、三朝温泉を愛してくれている人など、様々な人に支えられながらこの商品は生まれたわけです。その貴重な源泉をご家庭で楽しむことができるのです。
「三朝温泉水」の源泉
実はこの「三朝温泉水」の製造には悩みがあります。
製品を屋外で製造しているため、本当に自然との戦いになります。
今年の夏もそうでしたが、猛暑で源泉を濃縮しすぎてしまい、出荷予定よりも多くの製品ができてしまいます。
また冬になると、濃縮しているお湯が凍ってしまい、思い通りに製造することができません。
これは今後の課題といえます。
三朝温泉と自社の未来について語る、新藤社長
三朝温泉はここにしかありません。世界的なブランドに育って欲しいと願っていますが、それにはやはりブランドに必要な「信頼」を得なくてはなりません。唯一無二の商品であり続けるために、学術的な裏付けを得たいと考えています。
昔から湯治という言葉がありますが、医学的な根拠が発信されていないと感じています。現在は「入浴剤」という位置付けですが、健康へと繋がる商品に発展させていきたいと考えています。何よりも、その信頼に裏付けられた「三朝温泉」に、世界中から来ていただければ本望です。
さらには、私の代では難しいかもしれませんが、医薬品や化粧品などへの進化も視野にあります。それくらい、この商品には多くの可能性を期待しています。
とっとり中部発信プロジェクト
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